月下美人は本当に「月下の美人であります」
camera : Canon 20D, Lens : Distagon 21mm F2.8
月下美人という名前は、昭和天皇が皇太子の時分に台湾を訪問した時、当時の台湾総督の田健次郎さんが「月下の美人であります」と答えたところから定着したとのことです。残念ながら昭和天皇がそれを聞いて、「あ、そう」と言ったかどうかは確認できていません。
しかし、これを花の名前の由来とするには、少々乱暴です。なぜなら当時月下美人と言う意味の呼び名が台湾の一部にあって、田さんがそれを知っていたのかも知りません。
花がある以上何らかの呼び名があるはずですから。
ただ、その時からこの花を月下美人と言うように広まったのは事実でしょう。見事なくらいぴったりの美しい名前です。そして、その時の光景を映画のシーンのように想像してみると、学者肌の昭和天皇と、陛下を前に美しい花を挟んで緊張する高級官僚の姿がユーモラスでさえあります。
もしその名前をその場で思いついたにしても、この花に対する理解と好意がなければ生まれない名前です。少なくとも、夜に咲き出し数時間しか持たないことは知っていたでしょう。実際この花を育てると、どうしてこの花は、こんな手の込んだ花を咲かせ、そのくせ短く終えるのか不思議になります。まるで、時間が経って美しさを維持することがもう難しいと悟った瞬間、花の命を終えているようでもあります。
花は受粉の手助けをしてくれる動物や昆虫を引き寄せるためにあり、その手段として、甘い蜜を持ち、香りを持ち、目立つ色や形を持つもので、であればなにもそこまで美にこだわる必要は何のです。なのにこの花はそこに徹底的なこだわりがあるように思えます。
それは、花の開花が春から秋にかけて不定期にあるにも関わらず、真夏の蒸し暑い夜は避けていことからも言えます。そんな夜はどうしても花の痛みが早いですからね。また、この花は葉の先に小さな突起のような花芽を見つけた時から、開花まで結構時間がかかります。特に開花を待つと長く感じます。そのくせ、蕾が生長して上をむき出し開花の兆候が現れて、今夜が開花かな、と楽しみにして仕事に出かけると、そんな時に限って帰宅が深夜になり、しぼみかけた花を確認して悲しい気分になったりするのです。
しかし、運良く開花に立ち会うと、月夜に映える蒼白いベールを重ねたような花のイメージどおりの、新鮮で青っぽく、少し胡椒が利いているような静かで気品のある香りを楽しむことも出来ます。秋の月夜に開花に立ち会えた時など、時間を止めたいくらいに幸せです。
この月下美人を蒼白く、気高く、香りが漂ってくるようなイメージで写真を撮るにはどうしたら良いのか、いろいろ考えるのですが、なかなか納得の行くものは撮れません。写真で撮る場合には月の光で輝く雲を背景にして月夜の演出にしたいのですが、そんな美しい雲がある月夜に月下美人が咲く確立は低いし、そもそも光が溢れる都会では無理なのかもしれません。
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コメント
月下美人でこのような月光を感じさせる表現は初めて見ました。敬服です。エピソードも興味深く拝読しました。
投稿: lensmania | 2006年12月 4日 (月) 02時56分
月下美人にはもう一つネタがあって、これから書いて見ます。表題では姫月下美人になりますが。
投稿: kk | 2006年12月 4日 (月) 21時45分
すばらしい月下美人ですね。若い頃近所の婆さんがこれを育てていて、花が咲いたら写真撮ってね、とだいぶ前から頼まれていましたが、ブロニカS2を持って行きいざ撮って見ると上手く撮れていませんでした。懐かしい思い出の花 月下美人。
投稿: tetsu | 2006年12月12日 (火) 00時16分
tetsu 様、今晩は。
フイルムカメラで月下美人は難しいですね。ライティングとホワイトバランスの調整が厄介そうです。考え込んでいるうちに花が萎んでしまいそうだし。
夜の花を撮るたびにデジって便利と実感します。
投稿: kk | 2006年12月12日 (火) 21時47分